注目研究

注目研究

 国立高専の注目研究を、ライフサイエンス、環境・エネルギー、製造技術、材料・装置デバイス、機械、建築・土木、情報・通信、計測・分析、自然・科学、人文・社会の10の分野に分けて紹介します。

 

研究ネットワークについて日本全国に設置された51の国立高専に所属する研究者がネットワークを形成して、さまざまな分野で新産業につながる研究開発を行っています。全国各地で研究している研究者が連携することで、難解な技術問題に対して複合融合的なアプローチを行い、答えを見いだします。

GEAR5.0(研究成果の社会実装を通じた技術者教育の高度化)についてこちらをご覧ください。

事例紹介

研究分野
環境・エネルギー
分類

タイトル
フレンケル欠陥の導入による固体酸化物形燃料電池(SOFC)用材料の開発
氏名
伊藤 滋啓
学校名
鶴岡工業高等専門学校
所属学科等
創造工学科 化学・生物コース
職名
助教
プロフィール写真
概要
物質材料研究機構(NIMS・つくば市)エネルギー・環境材料研究拠点に高専より派遣研究員として出向中の伊藤滋啓助教,筆頭著者の研究成果が、このたびRSC Advancesに掲載されました。
本文
<研究内容
 次世代エネルギーデバイスとして燃料電池は注目されており、その中でも固体酸化物形燃料電池(SOFC)は高い発電効率を有するため実用化が期待されています。しかし、作動温度が900℃と高温であるため、作動温度の低下による安全性の確保と低コスト化が急務とされています。
 その解決策の一つとして挙げられるのが「高い電気伝導度を有する材料の開発」です。従来SOFC材料としてよく知られる高酸化物イオン伝導体の一種、イットリア安定化ジルコニア(8YSZ)は高い電気伝導度を有しています。この8YSZに匹敵する電気伝導度を有する材料として新たにBa2In2O5が開発されました。この材料は温度変化に伴う相変化によって900℃付近の高温で高い電気伝導度を示します。過去の研究ではBa2In2O5のBa位置やIn位置に異なる価数の元素を混ぜる(固溶する)ことによって、700℃でも高い電気伝導度を実現することに成功していました。しかしながら、Ba2In2O5が本来有しているはずの電気伝導度を引き出すことは出来ていませんでした。これは異原子価の元素を混ぜることによる「酸素欠陥の量の減少(ショットキー欠陥の導入)」が大きな原因であると考えられます。
 そこで、本研究ではBa2In2O5のIn位置にZn2+(2価)とZr4+(4価)を平均して3価になるように二元固溶することで酸素欠陥量を変化させず、さらにフレンケル欠陥生成を目的にBa2In2-x(Zn,Zr)xO5系(以下BIZZ)を合成しました。新輝合成したBIZZの電気的特性は、8YSZ、Ba2In2O5の高い電気伝導度を超える特性を示しました。この高い電気伝導度がフレンケル欠陥生成に起因するものであることを明らかにするためにTEM観察とソースコードGULPを用いた欠陥構造シミュレーションの2つを用いて高い電気伝導度を示した要因が「二元固溶によるフレンケル欠陥の生成」であることを明らかにしました。
 これらの結果より、これまでに報告例のない「フレンケル欠陥生成を利用した高電気伝導度試料の材料設計」を提案することができました。更なる高電気伝導材料合成のためには、よりフレンケル欠陥を増やすことが望ましいと考えられます。「二元固溶する元素の価数を変化させる」、「より均一にフレンケル欠陥を試料内部に生成させるための合成法検討」この2点を行うことにより、より高い電気伝導度を有する材料の合成が期待できます。

  固体酸化物形燃料電池(SOFC)用材料

本論文は、こちらからダウンロードできます。
オープンアクセスパブリッシングでの公開ですので、どなたでも無償で閲覧・ダウンロードが可能です。
http://pubs.rsc.org/en/content/articlelanding/2017/RA/c6ra27418h#!divAbstract


今後の展開
 新輝合成BIZZをSOFC用材料として用いるためにBIZZの特性評価をより詳細に行う。(伝導キャリアの確認:酸化物イオン輸率測定など)BIZZの特性を十分に活かせる候補としてはSOFC電極の電極反応活性助触媒が挙げられ、SOFCの作動温度低温化に貢献できると考えられる。また、フレンケル欠陥導入による高特性化の材料設計をより明確にし、他の燃料電池(固体高分子形燃料電池:PEFCなど)への応用に展開していきたい。
その他特記事項

電話
0235-25-9119 / 029-851-3354 (内線:8572)
E-Mail
s-ito*tsuruoka-nct.ac.jp / ITO.shigeharu*nims.go.jp
ホームページ
http://www.tsuruoka-nct.ac.jp/
掲載年度
2016年度